『教皇選挙』のあらすじには触れていますが、ネタバレは一切含まれていませんので、未鑑賞の方も安心して読み進んでください。
先日、仕事をするためにスタバへ行った。が、とにかく捗らないため、映画館にでも行こうと思い立ち、久しぶりにTOHOシネマズに行った。
以前から気になっていた『教皇選挙』を観ようと、早速チケットを買って席を取ったのだが、時間を見間違えていて上映ギリギリの入場になってしまった。
幸い、映画泥棒のシーンであると同時に、席を取ったのが一番後ろの席だったため、他の人に迷惑をかけずに入場ができた。
「なるほど、平日だというのに満席か」
右に大学生らしき一人の男性、左に老夫婦という布陣で映画を観賞。両隣の二人とも、非常にマナーが良くて助かったが、上映中にどこからともなく3度のスマホの通知音が鳴り響いた。
話題作にはつきものだが、映画館でのマナーをわきまえていない人が多かったのが少し残念だった。
しかし、だ。終わった後にはそんなことがどうでもよくなるほど『教皇選挙』は面白かった。というか、没入感が半端なく、スマホの通知音で一瞬現実に戻されるも、刹那の瞬間に再び劇中のコンクラーベへと引き戻される。
なかなかゲンナリするスマホの通知音さえをも かき消すほどの圧倒的な引力は、僕の心をすっかりと吸い込んでくれたのだった。
『教皇選挙』の没入感の正体

2025年のアカデミー賞で「脚色賞」を受賞した本作。映画的な面白さと、時代の真新しさが詰まった傑作だった。
本作は、バチカン市国の元首であるローマ教皇が死去することから譚をなす。教皇選挙「コンクラーベ」が執り行われ、新たな教皇を決めるための会議が始まるのであった。
私は、この前提とも言うべき“あらすじ”さえまともに知らずに、ただ映画のポスター画像だけを見て直感的に観賞を決めた。むしろ鑑賞後は何も見ずに観賞して良かったと思うのだが、それは俳優やストーリーに一切の先入観がなかったからだと思う。

映画が始まるや否や、この映画でローマ教皇が死去し、新たなローマ教皇を決めるための選挙が行われる。急ぎ執り行われるコンクラーベの忙しない渦に、自然と観客も急ぎ足でついて行くのだ。そして、ユニークなカメラワークで教皇選挙を仕切るローレンスを軸に、周囲の候補者たちの怪しさやバチカンの不安定な情勢を巧みに映し出し、さらに没頭させてゆく。
次第にミステリーの濃度が濃くなり、五里霧中になる。謎が一つ、また一つとあらわになって行くのだが、物語は単なるミステリードラマではないのもミソだ。
なぜならコンクラーベは、新教皇を決める選挙。つまり、キリスト教にとっては今、リーダーがいないという不安定な情勢であり、実際に市民の不安は劇中でもあらわになる。不穏な空気感はミステリーと相まってサスペンスな色合いを濃くし、観客により一層の心理的な負担を課す。
この、一見してミステリーかと思いきや、スリリングなサスペンス調の「緊張感」が没入感の正体だろう。

そして、それは俳優や監督、あらすじを知らなかった僕にとっては、より一層と大きなものであった。お恥ずかしながら、本作で主演を務めていたレイフ・ファインズを、私は知らなかった。
非常に繊細で心の機微を絶妙に表現する演技力は、本作で僕の中でも印象的だった。このうまさと、僕の無知が組み合わさったことで、レイフ・ファインズという先入観をなしに、真に劇中の登場人物として僕は没入できたのかもしれない。
そう思うと、何も知らなかったからこその面白さもあったのだろうと感じる。
もっとも、まさかレイフ・ファインズがヴォルデモート卿だったとは、さすがに驚きだった。
『教皇選挙』の感想まとめ

ネタバレさえしてはいないものの、多少の先入観を植え付けてしまったことを許して欲しい。ただ、これ以上は何も知らなくていいと思う。
まだ観賞していない人は、ぜひ前知識のない状態で、ただ観に行って欲しい。なんなら、観賞料金をドブに捨てるつもりで観賞して欲しいまである。
何も知らないからこそ、観るのは憚られるだろうか? いや、大丈夫。ドブに捨てたと思ったら、黄金の泉に投げ入れていて、それが最高の体験となって返ってくるから。
スマホの通知音なんかでは簡単に引き剥がせない映画の世界が、『教皇選挙』にはあるのだ。

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